熊本の人材不足は「採用」では解けない|県の調査データから考えるAIの使いどころ

2026-08-26 執筆: 今長 学(Exist Japan株式会社 代表取締役)

熊本県内でお話を伺うと、業種を問わず同じ言葉が返ってきます。

「人が採れない」

これは実感だけの話ではありません。県が公表しているデータにも、はっきり出ています。

県の調査: DXの課題は「人材不足」が59.4%

熊本県は令和7年12月〜令和8年1月にかけて、県内企業・団体を対象にDXの取組状況を調査しました(有効回答475社)。

DXに取り組むうえでの課題として最も多かったのが、これです。

「DXに関わる人材が足りない」59.4%

次いで「予算の確保が難しい」44.6%、「データの整理・活用ができていない」22.9%。

そして注目すべきは、この人材不足という回答が第1回調査から増加傾向にあると報告書に明記されている点です。年を追うごとに、状況は良くなるどころか厳しくなっています。

出典:熊本県 DXの取組状況に係る調査報告書(令和8年3月)

なぜ熊本で特に厳しいのか

背景には半導体があります。

令和4年4月19日、熊本県はJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing/台湾TSMCの子会社)と立地協定を結びました。県の企業立地ガイドにはこう記載されています。

「令和6年(2024年)12月に操業開始予定で、新規雇用は1,700名を予定されています。」

出典:熊本県企業立地課 企業立地ガイド熊本

さらに県は「くまもと半導体産業推進ビジョン」(令和5年度〜令和14年度/令和7年3月改定)で、県内大学・高専・高校卒業後の県内半導体関連企業への就職者数を年500人以上という目標を掲げました(改定前は255人以上)。

出典:熊本県 くまもと半導体産業推進ビジョン

半導体産業そのものは県の大きな強みです。県内の半導体関連品目の出荷金額は9,284億円で、**県の製造業の品目別合計の29.7%**を占めるまでになりました(産出事業所84社)。

しかし、限られた人材が半導体に向かうということは、それ以外の業種は採用市場でより厳しい戦いを強いられるということでもあります。

熊本の会社の大半は「1〜4人」

もうひとつ、県の構造を示す数字があります。

令和3年経済センサスによると、熊本県内の事業所72,744のうち、

  • 従業者1〜4人:41,378事業所(56.9%)
  • 5〜9人:14,514事業所(20.0%)
  • 10〜19人:9,143事業所(12.6%)

1事業所あたりの平均従業者数は9.8人です。

出典:熊本県 令和3年経済センサス-活動調査

つまり熊本の経済は、10人前後の会社が支えています。この規模で、大手と採用競争をして勝つのは現実的ではありません。

採用が無理なら、残る選択肢は2つ

人が足りないとき、打てる手は3つしかありません。

  1. 採る(採用)
  2. 外に出す(外注)
  3. いる人ができることを増やす

1が難しく、2はコストが上がり続けている。だとすれば3に賭けるしかない、というのが多くの熊本の会社の現在地だと思います。

そして3のうち、いちばん短期間で効くのがAIです。

実際、県内でもAI活用は動き始めている

同じ県の調査に、こういう結果があります。

DXの具体的な取組内容を聞いた設問で、「AI活用(チャットボットによる自動化やビッグデータ分析等)」が前回調査から7.6ポイント増加しました。

ちなみに取組内容の1位は「文書の電子化・ペーパレス化」81.2%、2位「オンライン会議設備の導入」62.4%です。AI活用はまだこれらより低いものの、伸び幅では突出しています

すでにDXに取り組んでいる企業は62.8%と、前回から3.7ポイント増加。一方で従業員20人以下の企業や建設業・卸売業では「必要だと思うが取り組めていない」が3割以上を占めています。

この差が、これから開いていく差です。

何から手をつけるか

AIで最初に減らすべきなのは、業種によって違います。県内で多い業種ごとに整理すると、こうなります。

| 業種 | 県内の位置づけ | AIで最初に減らせる仕事 | |---|---|---| | 卸売・小売 | 15,242事業所(最多) | チラシ・POP・商品説明・仕入先へのメール | | 医療・福祉 | 従業者125,646人(最多) | 記録・報告書・申し送りの下書き | | 食料品製造 | 製造業の20.4%(最多) | ラベル表示・バイヤー向け資料・EC商品説明 | | 建設業 | 7,151事業所(2位) | 見積内訳・安全書類・施工計画書 | | 農業 | 産出額4,116億円(全国6位) | 補助事業の申請書類・出荷先への案内 | | 半導体関連 | 出荷額の29.7% | 英語の技術文書・装置マニュアル・手順書 |

共通しているのは、**どれも「書く仕事」**だということです。

AIは工場のラインを速くはできませんが、そのラインを動かすために誰かが書いている書類は減らせます。そして中小企業では、その書類仕事が社長や少数の事務担当に集中しています。

まず無料で使えるものから

費用をかける前に、熊本には公的な無料の窓口があります。

くまもと産業支援財団「シンカ企業派遣支援事業」

  • 対象:製造業などものづくり中心の県内中小企業
  • 費用:無料(原則5回まで、1回2時間)
  • 内容:IoTや省エネに詳しい専門家チームが現場に入って伴走
  • 問い合わせ:096-289-2438
  • ※予算上限に達し次第、期間内でも終了

熊本県よろず支援拠点

  • 業種を問わない経営相談。無料、相談回数の制限なし

くまもとDX推進コンソーシアム(会員726社)

  • AI活用事例の共有会などのセミナー・イベント

補助金は「来年度」の準備を

正直にお伝えすると、2026年8月時点で県・市の主なDX補助金は受付を終えています。

  • 熊本県 中小企業DX推進臨時補助金(3分の2・上限500万円)→ 6月12日締切
  • 熊本市 DX環境整備事業補助金(2分の1・上限40万円)→ 予算到達で7月31日締切

ただし熊本市の制度は、補助対象経費に「デジタル人材関連費(研修受講料〈WEB受講含む〉、講師謝金)」が明記されています。研修費用が正面から対象になる、数少ない制度です。

毎年度7月1日ごろに募集が始まり先着順なので、来年度を狙うなら、いまのうちに何をやるか決めておくことをおすすめします。

なお県の調査で、企業が行政に期待する支援の第1位は「補助金・助成金」73.7%と突出していました。みんなが同じことを考えているので、先着順の制度は本当に早く埋まります。

まとめ

熊本の人材不足は、採用努力の問題ではなく構造の問題です。半導体という大きな産業が育つ一方で、10人前後の会社が人を確保するのは年々難しくなっています。

だからこそ、いまいる人ができることを増やす方向に、早めに舵を切る意味があります。

県内企業のAI活用は前回調査から7.6ポイント伸びました。動き始めている会社と、まだの会社の差が開き始めています。

御社で誰かが時間をかけている作業をひとつ教えてください。それがAIで減らせるかどうか、その場でお答えします。


※本記事の制度内容・統計は2026年8月26日時点で各公式ページに掲載されていた内容です。要件・金額・期限は変更されることがありますので、申請前に必ず公式ページでご確認ください。当社は補助金の申請代行を行っておりません。

今長 学(いまなが まなぶ)の顔写真

この記事の著者: 今長 学(いまなが まなぶ)

Exist Japan株式会社 代表取締役。経産省認定 経営革新等認定支援機関、大分県中小企業アドバイザー。生成AIビジネス活用研修 受講者累計500名以上、登壇200回以上。中小企業のAI活用とマーケティングを支援。→ プロフィール詳細

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