熊本のAI研修の進め方|誰から・どの業務から始めるかを5段階で整理

2026-08-26 執筆: 今長 学(Exist Japan株式会社 代表取締役)

熊本県内の経営者の方とお話ししていて、この一年で明らかに増えたご相談があります。

「AIが必要なのは、もう分かっている。分からないのは、社内でどう始めればいいかだ」

これは実感だけの話ではありません。県が公表しているデータにも、同じ構図が出ています。

本記事では、熊本の企業がAI研修を社内で進めるときの手順を、県の公表データを根拠に5段階で整理します。ツールの使い方の話は出てきません。誰から始め、どの業務を選び、どう広げるかという順番の話だけをします。

熊本の企業は「知らない」段階をすでに超えている

熊本県は令和7年度に、県内企業・団体475社を対象としたDXの取組状況調査を実施し、報告書を公表しています。まずそこに出ている数字を3つ並べます。

  • DXを「理解している」「ある程度理解している」の合計 … 69.1%
  • 既にDXに取り組んでいる企業 … 62.8%(前回調査から3.7ポイント増)
  • 具体的な取組内容のうち「AI活用(チャットボットによる自動化やビッグデータ分析等)」の伸び … 前回調査比+7.6ポイント

出典:熊本県 DXの取組状況に係る調査報告書(令和7年度・475社回答)

理解度は約7割、着手率は6割超です。つまり「AIを知らない」「必要性が分からない」という段階は、熊本の企業全体としては、すでに通過しています。

一方で、課題の第1位は「DXに関わる人材が足りない」で59.4%。しかもこの回答は、第1回調査から増加傾向にあると報告書に明記されています。

ここから読み取れることは、ひとつだと考えています。多くの会社で止まっているのは、理解ではなく、社内で進めるときの手順です。

ステップ1:誰から始めるか

「一番忙しい人」ではなく「一番書いている人」から

AI研修の相談をいただくと、最初に挙がる候補はたいてい「一番忙しい人」です。しかし忙しい人は、新しいやり方を試す時間がありません。結果として、研修の翌週には元のやり方に戻ります。

最初に選ぶべきなのは、業務時間のうち「文章を書く時間」がいちばん長い人です。見積書、報告書、申請書類、メール、案内文、記録。こうした書類を日常的に作っている人ほど、AIに置き換えたときの差が数字で出ます。

選び方の基準は、次の3つです。

  1. 週に5時間以上、文章や書類を作っている(測らなくても、本人に聞けば分かります)
  2. その人が作った書類を、他の社員も参考にしている(社内に広がる導線になります)
  3. やり方を変えることに、強い抵抗がない(スキルより、この一点のほうが効きます)

パソコンの得意・不得意は、判断材料に入れなくて構いません。いまの生成AIは日本語で指示するだけで動くため、表計算ソフトを使いこなせるかどうかは、ほとんど関係がなくなりました。

推進役は「1名+経営者」の2人体制で十分

県の調査では、DX推進に向けて必要な人材像として、次の4つが僅差で並んでいます。

  • デジタル技術を主導するリーダー格人材 … 46.3%
  • 企画立案・推進を行う実務リーダー格人材 … 45.7%
  • 経営戦略・DX計画を策定するリーダー格人材 … 40.8%
  • IT関連の基礎知識を持った人材 … 39.8%

4つが僅差で並んでいる、という点が重要です。求められているスキルが、ひとつに定まっていないということだからです。

ここは、正直に受け止めたほうがいい部分です。この4つを1人で満たす人材は、中小企業にはまず居ません。採用しようとすれば、半導体関連企業と同じ市場で取り合いになります。

現実的なのは、役割を2つに割ることです。

  • 経営者が「どの業務をAIに任せるか」を決める(上の3番目にあたる役割)
  • 推進役1名が「実際に手を動かして試し、社内に見せる」(1番目・2番目・4番目にあたる役割)

熊本県内の事業所の56.9%は従業者1〜4人、1事業所あたりの平均は9.8人です(熊本県 令和3年経済センサス-活動調査)。この規模で専任担当を置くことはできません。しかし逆に、経営者と担当者の2人が同じ認識を持てば、翌日から全社の運用を変えられる規模でもあります。人数が少ないことは、この局面では不利ではありません。

ステップ2:どの業務を選ぶか

最初の1件は、3つの条件で絞る

研修を実施しても定着しない会社には、共通点があります。最初に選ぶ業務が大きすぎることです。

最初の1件は、次の3条件をすべて満たすものから選んでください。

  1. 毎週発生する(月1回では、次にやるころに手順を忘れます)
  2. 成果物が文章・書類である(AIがいちばん確実に効く領域です)
  3. 間違えても、その場でやり直せる(社外にそのまま出る書類は、2件目以降に回します)

業種別・最初の1件の候補

熊本県内で事業所数・従業者数の多い業種ごとに、最初の1件として選びやすい業務を整理します。

共通しているのは、どれも誰かが毎週ゼロから書いている書類だという点です。AIは工場のラインを速くはできませんが、そのラインを動かすために誰かが書いている書類は減らせます。少人数の会社では、その書類仕事が経営者か少数の事務担当に集中しているため、効き目が早く出ます。

なお建設業と卸売・小売業は、県の調査で「必要だと思うが取り組めていない」が3割以上を占めると報告されています。着手が遅れている業種ほど、手つかずの業務がそのまま残っているということでもあります。

逆に、最初には選ばない業務

  • 顧客に直接届く文章(契約書、クレーム対応の返信など)
  • 数値の正確さが結果を左右する業務(決算数値の計算そのもの)
  • 個人情報や機密情報を大量に扱う業務

これらは「AIに向かない」のではなく、社内ルールを整えてから2件目以降に回すべき業務です。最初の1件で失敗すると、社内の空気が一気に冷めます。順番の問題として、後回しにしてください。

ステップ3:最初の30日で「1件だけ」完成させる

研修そのものは1日で終わります。しかし成果が出るかどうかは、研修後の30日で決まります。進め方の型は、以下のとおりです。

  • 1週目:ステップ2で選んだ業務を、実際にAIで1回やってみる。うまくいかない部分をメモする
  • 2週目:指示の出し方(プロンプト)を修正して、もう一度やる。ここで7割の完成度に届けばじゅうぶんです
  • 3週目:推進役以外の1名にも同じ手順でやってもらう。人が変わっても再現できるかを確認する
  • 4週目:手順をA4用紙1枚にまとめて、社内で共有する

かける時間は週1回30分で足ります。まとまった時間を確保しようとすると、確保できないまま1か月が過ぎます。

「時間を測る」ことだけは省かない

この30日で、ひとつだけ必ずやっていただきたいことがあります。その業務にかかっていた時間と、AIを使った後の時間を記録することです。

理由は2つあります。

ひとつは、社内を動かすためです。「便利だった」という感想では次の業務に広がりませんが、「月8時間減った」という数字は決裁を通します。

もうひとつは、補助金・助成金の申請に、そのまま使えるからです。県の調査では、企業が行政に期待する支援の第1位は「補助金・助成金」で**73.7%**と突出しています。裏を返せば、申請は競争になります。「どの業務が、どれだけ短くなったか」を数字で持っている会社と、持っていない会社では、申請書の説得力がまるで違います。

ステップ4:社内に広げる

研修を「1回のイベント」で終わらせないために、仕掛けは3つで足ります。

1. プロンプトを個人のものにしない

うまくいった指示文は、必ず全社で共有できる場所に置いてください。共有フォルダのテキストファイルでも、チャットツールの固定投稿でも構いません。AI活用が属人化する最大の原因は、うまくいった指示文が個人のパソコンに残ることです

2. 月1回15分の共有会をつくる

「今月、AIで楽になったこと」を1人1つ話すだけの会です。研修で覚えた内容は使わなければ消えますが、他人が使っている場面を見ると、人は自分の業務に置き換えて考え始めます。

3. ルールをA4用紙1枚で先に配る

「何を入力してはいけないか」だけを決めた紙です。顧客の個人情報、未公開の財務数値、取引先から預かった資料などを列挙し、それ以外は自由に使ってよいと明記します。禁止事項を細かく作り込むと、誰も使わなくなります。入れてはいけないものを決めて、残りは全部やっていいという形にしてください。

ステップ5:詰まったら、外の力を使う

自社だけで進めて止まったときのために、熊本県内には無料で使える窓口があります。費用をかける前に、まずこちらを使い切ることをおすすめします。

  • くまもと産業支援財団「シンカ企業派遣支援事業」:製造業などものづくりに主体を置く県内中小企業が対象。IoTや省エネに詳しい専門家チームが現場に入って伴走します。無料・原則5回まで(1回2時間が基本)。予算上限額に達し次第、期間内でも受付終了(事業革新支援室 096-289-2438)→ 詳細
  • 熊本県よろず支援拠点:業種を問わない中小企業向けの無料経営相談窓口。出張相談会・セミナー・勉強会も実施 → 詳細
  • くまもとDX推進コンソーシアム:県のデジタル戦略推進課が事務局を務める枠組み。会員企業・団体は726社で、AI活用事例の共有会などを開催 → 詳細

有料の研修を使う場合は、助成金の確認を先に

従業員に職務に関連した訓練を受けさせた場合、国の人材開発支援助成金(窓口:熊本労働局)で経費と訓練中の賃金の一部が助成される可能性があります。ただし訓練開始前に計画届の提出が必要です。研修日程を先に決めてしまうと間に合わないことがあるため、日程を確定させる前にご相談ください。

熊本労働局 各種助成金のご案内

5段階のまとめ

当社の企業向けAI研修について

当社(Exist Japan株式会社)は、熊本AIスクールとして企業向けの生成AI・AIエージェント研修を提供しています。

  • 企業向けAI研修:3時間・ハンズオン形式。10名まで165,000円(税込)、11〜50名220,000円(税込)、51名以上275,000円(税込)。講師が御社に伺い、出張費は実費を事前にお見積りします。オンライン実施にも対応
  • 実践型AI講座:2日間(実働6時間×2)・定員1〜6名。受講料440,000円(税込)。オンライン開催が基本で、対面をご希望の場合は熊本県内へ出張します
  • AI顧問:週1回90分×6ヶ月の伴走で、社内にAI活用の推進役を育てます。月額330,000円(税別)

講師の今長 学(代表取締役)は、生成AI研修の受講者が累計500名以上、セミナー・研修の登壇が200回以上です。

ステップ2でお伝えしたとおり、成果を決めるのは「最初にどの業務を選ぶか」です。御社でいま誰かが時間をかけている作業をひとつ教えていただければ、それがAIで減らせるかどうかを無料相談の場でお答えします。


※本記事の制度内容は2026年8月26日時点で各公式ページに掲載されていた内容です。要件・金額・期限は変更されることがありますので、申請前に必ず公式ページでご確認ください。当社は補助金の申請代行を行っておりません。

今長 学(いまなが まなぶ)の顔写真

この記事の著者: 今長 学(いまなが まなぶ)

Exist Japan株式会社 代表取締役。経産省認定 経営革新等認定支援機関、大分県中小企業アドバイザー。生成AIビジネス活用研修 受講者累計500名以上、登壇200回以上。中小企業のAI活用とマーケティングを支援。→ プロフィール詳細

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